航海記 その1
4月24日
タウンズビル港外に錨泊している。
最後の点検。
どうしてもオイルパイプが気になって仕方がない。
エンジンルームを覗いてみると、やはりかなりの量が洩れている。
昨日入れたオイルが殆ど抜けていて、検油棒の下端にわずかに油が
ついているような状態で、例のボルトのあたりでしたたり落ちてい
る。
銅パッキンが不良のようで、もう少し締め込もうと強めに締めたら
「・・・ブチッ・・・」
真ん中の穴のところで、切れてしまった。
もうおしまいか・・・と思ったが、ともかく動くようにしなければ
どうにもならない状況なのである。
問題のボルトは、ターボへ行っているパイプであるから、高回転さ
せなければ、とりあえずエンジンは動く。
一方はボルトでふさぎ、切れたほうの穴はタップビスでふさいで、
なんとかオイル洩れは止まった。
オイルを足して起動してみると、油圧はOK。
動くには動いたが、高速回転は無理である。
大して風が吹いているようではないので、錨を揚げて出港。
マリーナにチョイ着けして油のウエスと廃油を捨て、ついでに水を
満タンにしてゆるゆるとエンジンをかけながら、マグネティック島
の東から出る。
風は南東から4ないし5、いい風である。
予定では、夕方までにPalm Passage を抜けてしまおうということ
なので、コースは355度、ほぼ真北である。
オートパイロットは動くけれど、消費電力が大きくてバッテリーが
持ちそうもない。
かといって、エンジンはできるだけかけたくないし。
ウインドベーンを試してみるが、これがなかなかの難物。
後ろからの風に尻振り傾向になるのは仕方ないにしても、ワイルド
ジャイブを繰り返されたんでは、恐ろしくて作業ができない。
とりあえず、今後の大きな課題として残ってしまった。
いずれ何とかしなければ、航海は続けられない。
11時、Palm島が見えてきたころ、急速に黒雲が接近して、いきなり
東から40ノットのブローと土砂降りの雨。
ジブを巻き込もうとしたが、半分巻いたところで暴れまわって、見事
に絡み付いてしまった。
手が出せない状況で、あれよあれよという間にビリビリッ!と破れて
しまった。
これじゃ、動きが取れない。
Palm島の一番大きいGrand Palmの泊地は二ヶ所あるが、すぐ近くの
北側の泊地は北東に大きく開いていて、波が打ち込んでいるから、
避難どころか、遭難しに行くようなものである。
裏側の南端にある飛行場沖の錨地へ行くには、5マイルは走らなけれ
ばならないが、この際選択の余地はない。
PCの電子海図上のGPS位置情報を元に、一番近いColiop Channel
を抜けることにする。
風雨がひどくて、視界500mほどであるが、PCを見ながら行けば
これ以上確実な方法は無いように思われる。
浅くなれば、ちゃんと警報も鳴るし。
1時間半ほど流して、エンジン1500rpm、4ノットで無事水道を通過、
裏側の平水面に入ったところで、ジブの回収作業にかかる。
ジブシートを束ねて持ち、何回か廻しているうちにバラバラとほどけ
てきたので、すぐに引き降ろして最大の問題は解決。
クルージングガイドの記事にある錨地にたどり着いたが、南東風がまと
もに吹き付けて、しかも絞れてくるから常時20ノットは吹いている。
といっても他に選択の余地は無いから、なるべく浅くて南のうねりの
影響の少ないところを探して水深5.8mのところに投錨。
桟橋への進入灯と島の南端を結んだ線が、トランジットになる。
錨鎖は12mとするが、強風にウインドラスが負けて時折ガラガラと
錨が出て行く。
それにしても何という天気だろう。
スコールってこういうものなんだろうか?
夕食はチキンソテーにする。
20時に寝るが、午前1時にあまりの風に目が覚めてしまう。
動きの重い風速計が40ノットを過ぎている。
風力発電機の羽根がものすごい唸りを上げているが、止めようとしても
どうにも鳴らない。
走錨を怖れて錨鎖を5m伸ばすが、下に岸を背負っていないのが救いでは
ありますよ。
桟橋と手前の黄色灯の位置関係はずれていないとは思うけど、夜はどうし
ても近くに見えてしまう。
一応アンカーの効き具合を確認して就寝、2時。
4月25日
今後の航海をどうするか、考えなくてはならない。
もう一枚予備のジブがあるので、帆走は可能。
エンジンも一応は動くが、これとてもいつ壊れるかわからない。
帆走に関しては、ぎりぎり上って南東の風で60度がいっぱいと思われ、
バヌアツまでは上り切れそうも無い。
これはメインが伸びきって、しかもワンポイントリーフしてあるからで、
解いたらオーバーキャンバスになった場合、再度リーフするのは構造上
大変難しくなる。
さらに、ウインドベーンが働かないとなると、オートパイロットで走る
ことになるが、これもまた消費電力が大きいから、当然エンジンを使い
ながら行くことになる。
となると、エンジンへの負担が大きくなる。
結局、バヌアツへは行かれない、という結論にしかならない。
コース的に楽なソロモン方面という選択もなくはないが、その後の北東
貿易風をどう乗り切っていくか・・・
やはり、この船向きの航海ではない。
破れたジブを袋に詰め、ジャイブ・プリペンダーをセット。
13:20、何年かぶりのオケラ・ネットに出てみる。
JD1BBH父島の山田さんとは、6年ぶりの交信。
そのあとに淡輪の吉田さんとQSO。
皆さん、お元気なようで何よりであります。
夕食はカレーライス。
相変わらず南東の風20ノット。
4月26日
南東からやや南に振れた風が時々30ノットを越えて吹きつけ、
うねりも入ってくるようになった。
なんとなく錨が動いているような気がして、チェーンを3mほど
延ばすが、気にし始めるときりがない。
雨季は終わったはずなのに、全く何という天気であるか・・・
シェークダウンにはいいけど、そのつもりで出た時には20ノット
位しか吹かず、問題なしと思ってしまったのが失敗だったかなぁ。
船の様子がわかってくるにつけ、この船はなかなか一筋縄ではい
かないように思えてくる。
毎日何かしらトラブルが発生するのは仕方ないけど、ひょっとして
オーストラリアから出るのを嫌がっているんじゃなかろうか・・・?
午後、南に振れた風で、岸を背に負う形になりそうなので、例の
大仕事をしながら揚錨、裏に回ろうとするが、ここでエンジンの
排気洩れが始まった。
ターボの過熱からか、排気マニホールドのパイプが切れたようだ。
仕方がない、700rpmで1ノット、元の錨地に戻りさらに奥
まで進入して、投錨。
いくらか状態はよくなったようだ。
明日、少しでも風が落ちたらタウンズビルに戻ろう。
4月27日
3時半、船が沈んだ夢で目が覚める。
悪夢・・・寝ても悪夢、覚めても悪夢の中である。
風は相変わらず南東20ノット。
まだ無理かな、と思い、また寝る。
今度の夢はStardustでクルージングに行った夢。
10数年前の連休、勝浦に行ったときのようで、とてもにぎやかな
夢であるが、覚めればやはり一人で吹かれているのである。
6時半、風は10ノット程度に落ちている。
急いで支度し、残りのご飯をお茶漬けにして掻きこみ、すぐにアン
カー揚げにかかる。
例によって何度もアンカーウェルに飛び込んで、また引き揚げに
かかる状態で、緊急のときなどはどうしようもないだろう。
今は下の岸まで4マイルはあるから、余裕で作業できる。
とにかく無事揚錨、メインを揚げ、ジブを揚げて帆走にかかる。
Grand Palm islandの南にはいくつかの小島があり、その間を通
れるとかなり距離の短縮になるのだが、どうにも風の向きが悪い。
安全第一、西端のEsk island のさらに西を回る。
風は東南東8mから10mといったところ、ぎりぎりに上っても
見かけで155度が精一杯。
メインが袋状態では致し方なし。
Townsvilleまで35マイルだけど、実質倍の70マイルは覚悟して
いなきゃならないだろう。
さらに南のHavannah island
のあたりを右往左往してるうちに、
ジブの縁のシームに沿って1.5mほど裂けはじめている。
急いで降ろして、インナージブを揚げるが、30ノットの風でも
4ノットで上っていくのがやっとの有り様。
ま、何とか朝までに着けるだろうと、腹をくくる。
ところがこれが大甘で、見かけ155度なら反対のタックで70度
で行ける筈なのに、GPSではポートが160度でスターボードは
40度。
実に120度のタッキングアングル、これはまさに江戸時代の和船
並みである。
中間にあるAcheron islandの北側を一晩中行ったり来たりを繰り返
していたのであるが、この40度の角度は障害物もなく、数分の
仮眠が取れるのが何よりの救いである。
明け方まで10回ほどタックを繰り返すが、風が落ちてきて一回で
タックすることができなかったりして、ジャイブで回ったりとか、
なんとも情けない帆走状態となる。
朝5時、なんとかAcheronをかわして、さらに南のHerald islandと
その東のColderia Rockの間をぎりぎりに過ぎて、やっとTownsville
入り口のBay Rockまで後5マイルというところまでたどり着いた。
しかしここで完全に風が凪いで南東5m弱となり、にっちもさっち
も行かなくなり、しばし様子を見ることにした。
この状態では、予定のMagneyic island 西の航路からの入港には
後一日かかりそう。
といって、南東風でこのTownsville West Channel から帆走で
入るなんてことは、正気の沙汰ではない。
Breakwater Marinaへ電話して、どうしたらいい?と聞いたら、一言
「コーストガードに引っ張ってもらえば?」
確かにその通り。
日本の海上保安庁と違い、有料サービスだが新聞に載るような事は
ない。
連絡を頼んで待つこと1時間、16chで連絡がきた。
そこはDriftしていても安全か?と聞かれたから、「No problem」と
答えたら、じゃ、今は干潮で入れないからアンカー打って夕方まで待っ
ていろ・・・なんとも悠長な話。
アンカー打つにも15mもあるから、とりあえず流されていよう。
こうして待つこと6時間余、夜6時半にコーストガードが着いた。
最初の位置から流されること8マイル。
走っているより流されるほうが速いよ。
ともあれ、3時間かけて夜10時に無事にマリーナに到着。
5日ぶりの熱いシャワー、40時間ぶりの睡眠・・・
4月25日画像
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